今年は「ドルの年」といわんばかりに、アメリカの長短金利・米国債利回りが話題になる年となっています。FX(外国為替証拠金取引)をそれなりに活用している筆者の感覚でも、久しぶりに特にドル円に注目した年となりました。
米FOMC議事要旨が公表される中で本稿を執筆しておりますが、ハイペースなドル円の円安トレンドもいったんは沈静化していくのかと感じています。
長期の積立投資家は、基本的に世界中の各資産に分散投資をしているかたが多いと思いますので、積立投資といえば同時に「国際分散投資」でもあることが一般的です。
もしかするとこのような投資家にとって、日本以外の海外資産への投資については、海外の株式市場よりドル円などの為替レートのほうが身近でもあり関心が高いのかもしれませんが、海外資産へ積立投資をしているかたは、基本的に為替レートはあまり気にせず積立てを継続していただいてかまいません。
それは為替レートと株価では、概念としては全く異なる性質をもっているからです。
目次
株価は「絶対評価」・為替レートは「相対評価」
株式の価格を「株価」、ドル円などの為替の数字を「為替レート」と呼びますが、この2つの数字の評価方法は明確に性質がことなっています。
株価は、その企業の業績や決算情報・業界動向など、個別企業の現状や決算・将来展望などによって株価は上下し、個別の株式そのものが評価対象となっているため「絶対評価」になります。この特徴は、積立投資家が投資する株式を組入れた投資信託のほとんどにあてはまります。
一方、ドル円などの為替レートは「通貨ペア」(ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円)などのように、ドルだけ、円だけが評価対象なのではなく、ドルに対して円がいまいくらか、ユーロに対して円がいまいくらか、という評価方法によって為替レートが上下します。
算数を使って表現するなら「分数」となり、ドル/円は「ドルが分子・円が分母」で、1ドルに対して円が113円というようになり、この基本的な並び方は国際ルールで決まっており、一般的には「円ドル」とはせずに「ドル円」と表記されます。
ドル円・ドル/円
ドル:分子(割られる数)
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円:分母(割る数)
これらの為替レートは、日本の円だけの個別評価ではなく、必ず相手国のアメリカドルがあってこその評価方法・算出方法になっているため「相対評価」になります。
テレビ番組などでもたまに為替のマーケットのメカニズムをよくご存じないかたが「日本が借金をすると超円安になってしまう!」などと発言しているシーンがありますが、これは主に日米間のバランスを無視した視点による大間違いです。
日本が借金(本来の意味では「日本の債務増加」)をしたとしても、アメリカが同様のペースで借金をすると、このこと自体が為替レートに与える影響は理論上、以前と変わらずフラットになります。
20年前のドル円の為替レート
以上の理由により、ドル円などの為替レートは個別にどうこうできる問題でもなく、政治・金融政策・貿易・雇用・相場動向など様々な要因が複雑に絡み合って動いていきますので、積立投資家が資産を蓄えるという意味ではドル円のチャート以外をあまり気にすることはないかもしれません。
また海外資産も保有することによる長期的な資産形成においては、為替レートの上下よりも株価の上下のほうがより重要で、海外株式などの海外資産に投資する投資信託の値段(基準価額)の増減については、為替レートが当初より円高ならマイナス要因、円安ならプラス要因となります。
いまから20年前、2001年のドル円は、113円台~132円程度の範囲内で動いていましたが、2021年10月14日現在は113円台。アメリカの主要株価指標である「NYダウ」というインデックス(指標)は、当時は8,000ドル台から11,000ドル台に対して、同現在34,000ドル台。
今後どちらがより大きく上下するか、変化率がそれぞれどうなるかはわかりませんが、そもそも為替レートは相対評価であるため、絶対評価の株価以上に、レートの変化については将来の不確定要素が大きくなるため、あまり気にしすぎても資産形成には意味がないということになります。
経済の勉強をしたいなら為替、金融なら株式
一概に決めつけることではありませんが、為替と株価と、お金の勉強をする際における筆者のイメージをご参考にしていただけたら幸いです。
積立投資や投資商品などの「投資の勉強」という意味では、株式から学んでいただいたほうが、よりわかりやすく近道かもしれません。
一方、世界で何が起こっているかなどの、いまの世の中や経済のことをより大局的な視点で勉強するという意味では、為替から学んでいただくほうが結果的に近道なのかもしれません。
為替を学ぶことは株式について学ぶことより、より広い範囲といいますか、より抽象的かつ大きな視点をカバーしていくことになりますので、普段お金について学ぶ時間を効率的に配分していきたいという積立投資のかたでしたら、ぜひ株式を組入れた投資信託から学んでいただくと良いでしょう。
ただし、金融取引を理解するという意味では、株式投資や投資信託への投資よりも、ドル円などの外貨への投資(外貨預金など)のほうが種類も少なく、よりわかりやすいのかもしれません。
筆者としてはどちらから学んでいただいても良いと思いますが、どちらにしても最終的には金融商品の売買以上に、我々が生きているこの経済について、もっと興味をもっていただけるように日々の発信・普及活動をしていこうと思っております。