中央銀行を待っている悲劇。今度の敵は、インフレという名の魔女

中央銀行を待っている悲劇。今度の敵は、インフレという名の魔女

インフレという名の魔女が、すぐ後ろに迫っている2021年の世界経済。この魔女は、影のように消えていくのか実体化してしまうのか。株式や金投資についてのSNSやニュースは、この話題でもちきり。

今回は、金投資に影響する「現在のインフレ」についてお話しします。

インフレといえば、金投資がセオリー

インフレは、物の値段が上がること。生活に必要な穀物や材木などの価格は、すでに大きく上昇しています。ただ、穀物などの商品(コモディティ)は、規模が小さく値動きが大きいため、投資しにくいのが欠点。そのため、同じ商品にカテゴリーされる金投資に注目が集まっています。

穀物価格の上昇

金=インフレというセオリーは、有名ですよね。しかし、金は金利をもらえません。そのため、インフレ率以上に金利が上がると値下がりしやすい面もあり、気をつけたいところ。ここはくわしく話したいところですので、今後を楽しみにお待ち下さい。

インフレが起きている理由

昨年、インフレに先駆けて金価格は大きく上昇しました。

この原因は、中央銀行の量的緩和と政府による現金給付。これは一言で言うと「お金のバラマキ」です。もちろん、そうしなければ世界経済はもっと悪化していたかもしれませんし、これが悪と決めつけるのはまだ早いでしょう。

そして、お金のバラマキに加えて持続可能な社会を作るためのインフラ投資(社会に必要な設備)を上乗せ。まさにポーカーで、エースのスリーカードがそろったようなもの。おっと、魔女の足音が・・・。

病気状態の金融市場に、さらなる薬を・・・

「お金のバラマキ」は、なぜダメなのでしょうか。それは副作用があるから。すでに、金融市場は病気がちで、薬をたくさん飲んでいました。

健康な市場は、中央銀行や政府がほとんど介入せずに市場で値段を決めます。経済学者のアダム・スミスの言う「神の見えざる手」によって、需給バランス=価格が決まるのが正常。

しかし、市場は病気。中央銀行が債券やETF(上場投資信託)を買い入れることで、景気や株価を支え、金利を低く抑えてきました。ずっと薬を飲まなければいけない体だったのです。ここに新型コロナウイルスが襲いかかり、さらに強い薬を打ったのが、2020年以降の金融市場。

インフレという魔女の登場。

経済が落ち込んでいるのに、株式市場が上がるという不思議な現象はあちこちで話題でしたよね。

株式市場の上昇は、量的緩和と現金給付の二つで説明できます。企業業績が悪くても、中央銀行と政府がお金をばらまけば、株式は高くなる。なぜかって・・・答えは簡単。株価が下がれば、中央銀行が買い支えてくれますからね。余ったお金があれば、株を買わねば損!

そして、都市封鎖に外出禁止。株は外にでなくても、スマホやPCでチャートや企業分析を行い、ポチッとボタンを押すだけで売買できます。しかも儲かるとなれば、止まりません。

いよいよ副作用としてのインフレ。

新型コロナウイルスは、モノの流れを止めました。モノの流れは、「流通」という言葉がある通り、動いていてナンボです。外出禁止は、穀物生産に必要な労働力や肥料・種子の動きを止めてしまいました。一部がストップした巨大な流通網を、もう一度流れに乗せるのは大変。そのため、あちこちでモノ不足が起きて物価は上がりました。

モノ不足が怖いのは、政治不安・戦争につながるから。政治の一番大切な役割は、食事と安全の確保。古き世では、飢饉や天変地異に備えた食料の保存と分配が、長(リーダー)の役目でした。

2010年から2012年にかけて、アラブ諸国で起きたデモや革命もインフレ(穀物価格の上昇)をきっかけにしています。自由よりも大切なのは、いつの世も食料。つまり、このままインフレが拡大していけば、商品価格の上昇と政治・戦争リスクが高まるということになります。これは、二つとも金価格の上昇要因。

そのため、世界中の投資家達は、「金」に注目しているのです。

危ないインフレは、具体的に何%?

インフレを測る指標の一つ。米国の2021年4月消費者物価指数(CPI)は、前年比4.2%の上昇。この4%を超えたのは衝撃的だったのです。

ただし、この数字は前年との比較という点に注意しなければいけません。前の年は、コロナによる経済ダメージを大きく受けています。そのため、大幅上昇が予想されていました。米国で中央銀行の役割を果たしているFRBも、今春のインフレ率は高くなるだろうと予想して警告を繰り返していました。

インフレ率4%は、危険水準

このレベルの数字が続けば、いよいよインフレ時代の到来。

インフレ率2%が政策目標

そして、FRBは、経済成長と雇用確保にちょうど良い水準のインフレ率を2%に設定しています。これより低ければ、経済を刺激するために、「低金利や量的緩和」といった政策を行います。逆に、2%より高ければ「金利の引き上げや量的緩和の終了」を行います。

つまり、これまで行ってきた「お金のバラマキ」政策をストップする可能性が浮上しているということです。今回、この辺はさわりだけにしておきますね。

ついに、インフレについての黄信号、点灯す。

ちなみに先進国の中央銀行全体で、最適なインフレ水準を2%として、政策を実行しています。それによって、為替相場の変動を抑え、各国の経済を安定して成長させようとしているのです。まあ、談合と言うこともできるでしょう。

2%を基準にすると、インフレ率4%は、二倍ですからね。株式市場は、4%を超えると、混乱するという話をウォール・ストリート・ジャーナルが記事にしています。その記事によると、米国で、インフレ率が4%を超えたのは、1957年以来、9回。そのうち8回という高確率で、三ヶ月後の株価は下落。

インフレ率4%・・・かなり危ない水準

しかしFRBは、この物価上昇が一時的というメインシナリオを演じたまま。高くなったのは、昨年度との比較による特殊要因であって、慌てることはないという考え。それに対し、ホントに大丈夫なのと疑っている声もたくさん。

中央銀行は、やらかしがち。万能の神ではありません。

元FRB議長のアラン・グリーンスパン氏は、「バブルは崩壊して、初めてバブルだと分かる」との言葉を残しました。続くバーナンキ議長も「サブプライムローン危機」の規模を見誤りました。

さて、現議長のパウエル氏は、この危機を正確に判断して予め防ぐことができるのでしょうか。前任者二人は、バブル発生も崩壊も防げていません。前もってバブルを防ぐのは、とてもむずかしい。

ほとんどの投資家は、無理だろうと思っています。だからこそ、暗号資産やゴールドが買われたのです。暗号資産を買うニーズの一つは、中央銀行を信用しないということですからね。

インフレは、一時的のセリフが通用するのは、7月までか

インフレ率が7月以降も上がり続けた場合、さすがに、一時的というセリフを使えなくなります。いつも同じセリフでは、口のうまい浮気男もほっぺにバシーンと平手打ちを食らうでしょう。その場合、インフレという魔女にパウエル議長はどう対処するのか、シェイクスピアや名探偵ホームズも驚くような名セリフや名案をひねりだせるのかお手並み拝見というところ。

もし、FRBのシナリオどおり下がっていけば、あれは影だったと一安心できます。

インフレによる金利上昇や株式のリスクが高まる中、2021年は、金価格も激しく動く熱い夏になりそうです!