世界の主要国・地域で金融政策の方針を転換し始めた2021年。日本銀行は相変わらず大規模な金融緩和政策を続けています。円安の進行も、日本の低金利が一因でしょう。
ですが、2021年は、日銀が1つ大きな金融政策の見直しを行った場面もありました。3月の金融政策決定会合で、ETFおよびJ-REIT買入れの効果を点検し、買入れ方針を弾力化することにしたのです。これにより日銀は、市場が大きく不安定化した場合のみ、ETFやJ-REITを買入れることとしました。
その後、方針通りおとなしくなったクジラ(日銀)の動向は、どうなったでしょうか。
目次
簡単に、日銀のETF買いをおさらい
まずは簡単に、日銀によるETF買入れについて、おさらいしておきましょう。
日銀がETFを買入れる目的は、資金を市場に投入することと、長期国債利回りと株式の益回りを相対評価した投資家が、株式を買う意識になるようにすることです。
日銀のETF買入れは、2010年12月15日から始まりました。当初の日銀総裁は白川方明氏でした。1年限りの政策でしたが、効果が見られず、期限延長や買入れ金額を増やすなどを繰り返し、安倍第2次政権のアベノミクスがスタート。次いで2013年3月20日に黒田東彦氏が日銀総裁に就任します。
黒田総裁の下、2013年4月に量的・質的金融緩和政策が敷かれ、その後、徐々に年間のETF買入れ枠が増額されていきます。そして2020年3月、新型コロナウィルスが日本でも本格的に広がり出し、年間のETF買入れ枠は12兆円にまで増額されました(ただし、2020年の実際の買入れ額は7兆円強)。
日本の株式市場での日銀の存在はとてつもなく大きく、「クジラ」と呼ばれるようになったのです。
2021年3月会合で、日銀が「点検」の結果を公表
日銀の存在は、「株価が大きく下がるとクジラが買い支えてくれる」安心感から、いつからか「日銀が保有するETFを売りに出すようになった時はどうなる」という心配の種に変わっていきました。
日銀は、2021年3月の金融政策決定会合で、「より効果的で持続的な金融緩和について」を公表。ETFやJ-REITの買入れ効果を点検した結果、事実上、買入れの一時停止となったのです。
●「より効果的で持続的な金融緩和について」(日本銀行WEBサイト)
その結果、日銀による2021年のETF買入れ額は8,734億円(設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETFを含む)となり、前年の71,366億円から9割近く減少しました。
日銀による年間のETF買入れ額をグラフで見てみましょう。
(グラフ1)
3月の方針見直しの後も、日銀は、1回当たり700億円程度のETF買入れを数回行っています。株価の下がり方が急な日に買っていますが、急落した日に必ず買っているというわけではないところに注意が必要です。
今後のクジラの動向は、市場の買い支えよりも、売りに転じるタイミングに注目が集まると考えられています。
せっせと買い集めたETFの残高は?
そこで気になるのは、日銀がどれだけETFを保有しているか、です。日銀のサイトで日銀のバランスシートを確認することができます。
この公表データから、日銀が保有するETFの残高を3ヵ月ごとに追ってみました。
(グラフ2)
ご覧のように、2021年は資産残高の伸びが鈍くなっています。
日銀の公表資料は、ホームページから誰でも簡単に見ることができます。この先、株式や為替の取引をする投資家にとっては、クジラの様子を伺うべきタイミングもあろうかと思います。
投資判断は、一次情報を見ることが大切です。日銀の公表内容は、定期的に見ることをお勧めします。