金は、広く流通している「お金」の中でも特殊な能力を持っている。誰からも支配されず、通貨の面とモノ(コモディティ)の両面を兼ね備えているのです。
まるで、映画「アベンジャーズ」のプロローグみたいな書き出しになりました。本題はここからです。
そう、金はモノとしての面を持つ実物資産ですから、価値がゼロになることもありません。誰からも支配されていないので、中央銀行&政府の意向で大量に発行することもできないというメリットがあります。
目次
金は、通貨&コモディティと二つの性格を持つ
さて、「金」の持つ二重人格的な要素。二重人格といえば、ジキルとハイドをはじめ、同じ人の中に表と裏の性質を併せ持つ性質ですよね。金も二重人格者と同じ、複数の性質を持つ貴金属です。
大きく分けると、金は「通貨としての役割」と「工業に使うモノとしての役割」の二つを持っています。
ほとんどの場合、金と聞いて思いつくのは金の指輪などアクセサリーや金の延べ棒など、財産としての姿でしょう。それ以外にも「工業製品=コモディティ」としての役割も大きいのが金です。
また、米ドル・ユーロ・日本円と並ぶ「通貨としての役割」も持っているのが金。
通貨とモノの二面性を持つ唯一の通貨
過去にお金だったモノ達。お米は、ご飯・お酒と多くの用途で使います。銀や銅も同じく、いろんなところで使われている人類に有用な金属。しかし用途が多いのと「通貨」は、はっきりと違います。
米・銀・銅は、金と同じく、かつては通貨としての役割も担っていました。しかし21世紀の今、通貨として現役なのは金だけです。かつて金銀と並び立っていた銀を通貨と呼ぶのは苦しいでしょう。
モノ=コモディティとしての金
モノ=コモディティとしての金は、需要と供給のバランスによって価格が決まります。
金の用途は宝飾品が主体。次に使われているのが、電子部品。金は縁遠いというあなたも、たくさん金を持っているはず。パソコン・携帯電話など身近な分野で金は含まれていますからね。私も東京五輪のメダルづくりに、パソコンをいくつか送りました。無事に開催されて、選手の手に渡ればいいなとその日を楽しみにしています。
紙幣と金の採算ラインについて
ひとつ需給バランスについて例を上げると、米ドルや日本円には生産コスト=採算ラインがありません。1万円札を作るための費用は非公開ながら、1枚17~26円程度のようです。つまり1万円札の採算ラインは、約20円ということになりますね。現代は紙幣として流通しないお金も増えていますので、作るコストはタダみたいなもの。
それゆえ、日本円の採算ラインは無料と考えられます。しかし金は、中央銀行や政府が錬金術で作れるものではありません。金鉱山から金鉱石を掘り出して生産するものですから、生産するためのコストがかかります。そのコスト(産金コスト)は2014年で、1オンスあたり1,314ドル。これ以上、金価格が安くなると全体的に見て赤字になるため、生産量は減少しやすくなります。
金は安くなると生産しても採算が取れないため、新規開発・採掘が停滞して、底値を支えるという特徴もあるのです。
モノを作るのは大変ですが、紙幣・デジタルを作るのは簡単
一方、通貨としての金は、金利や他通貨との関係などによって価格が決まります。これに先ほどお話した「モノ」としての要素がプラスされます。金が通貨として特殊なのは、モノ=実物資産としての側面も持っているから。普通の通貨と違い、物理的に発行できる量に限りがあります。
これ、諸刃の剣ながら凄いことなんです。
通貨の発行量をコントロールできるのか
通貨の発行量は、社会全体のモノやサービスの増加と歩調を合わせて増やしていくのが原則。これに失敗すると、経済は混乱し、インフレやデフレになってしまいます。
経済が上手く行っている時、この通貨量のコントロールは難しくありません。GDP(国内総生産)の増加にあわせて、じわじわと通貨の量を増やせばいいわけですからね。ここでは、GDP=経済全体の総量とお考えください。
異常事態には、通貨量が増える
しかし、戦争・天変地異などイレギュラーな事態が襲いかかると大変です。そういった大イベントは、GDPを減らします。確かに、戦争で後方を支援する生産国はGDPを増やすことになりますが、戦地となる国は大きくGDPが落ち込みますからね。トータルで見ればマイナス要因。
となれば本来、世界全体では通貨発行量を減らすのがセオリー。しかし、セオリー通りに政策を実行するなんて不可能。今回の新型コロナウイルスによるパンデミックが証明している通り、そんな大災害時に通貨発行量を減らし、政府・中央銀行がデフレ・景気後退を起こすことなどできるわけがありません。
結果、通貨発行量が増えてしまい、最終的に通貨の価値が落ちるインフレが起きることになります。。これはコロナによるパンデミック以外にも、ベトナム戦争時の米ドルなどにも起きたことです。
発行量を増やせない唯一の通貨が金
それに対して、金はどうでしょうか。戦争・パンデミックであっても、いきなり金鉱山から金を大量に掘り出すことはできません。田畑の稲や麦でさえ、半年から1年かけないと実らないのです。桃栗三年柿八年なら金鉱山を見つけてから掘り出すには、10年見ておいた方がいいでしょう。
そのため、米ドル・日本円・ユーロのといった通常のお金のように金の発行量を劇的に増やすことはできず、価値が保たれることになります。