金価格の運命を握る「実質金利」をわかりやすく解説します

金価格の運命を握る「実質金利」をわかりやすく解説します

これまで私の記事では、名目金利についてお伝えしてきました。今回お話するのは実質金利です。

この2つの金利と金価格の関係をわかりやすくお伝えしたいと思います。名目金利という名前からは、少しネガティブな印象を持つかもしれません。実質金利の方が正しい金利っぽいですからね。

名目金利と実質金利の違い

ふつうに金利といえば、名目金利のことを指します。表面上の金利、見かけの金利と説明することもあります。銀行の定期預金、国債の利回りなどはすべて名目金利です。

例えば、米国の10年国債について利回り「1.5%」で取引されていれば、「名目金利は1.5%」となります。

実質金利こそ金価格の値動きに直結

それに対して実質金利は、少し特殊。投資や経済政策などで多用されるため、一般のテレビニュースに出てくることも少ない言葉。しかしこの実質金利こそ、金価格の値動きと深い仲にある重要な金利なんです。

では、この実質金利がどのようなものか確認してみましょう。

実質金利は、名目金利から今後の物価上昇率を差し引いて計算。ちなみに、今後の物価上昇率のことを専門的な言葉で「期待インフレ率または予想物価上昇率」と言います。

実質金利の計算式は、こうなります。

「実質金利=名目金利-期待インフレ率」

ということは、実質金利は名目金利が変わらなくても、期待インフレ率次第で変化するということになりますね。

名目金利が高くてもインフレ率が高ければ、お金の価値は減っていきます。そのため、何か投資を行うときにその判断材料となるのは、この実質金利。

名目金利が高くても、 インフレ率が高ければ 実質金利は低くなる

いくら表面上の名目金利が高くてもインフレ率が同じレベルであれば、実質金利は0%。であれば、名目金利が低くてもインフレ率の低い方が投資するのに有利です。

そう、下記のaとbの場合、本当の意味で金利が高いのはbになります。

a.名目金利5%、インフレ率4%=実質金利は1%
b.名目金利2%、インフレ率2%=実質金利は2%

投資用にマンションを買う時、表面利回りだけでなく、経費や税金を加えた実質利回りで判断するのと同じです。

インフレと実質金利

金価格は、金利が上がれば下がるのがセオリー。この時、名目金利だけでなく、実質金利のことを分かっているとより、金の値動きについて理解度が高まります。

もし金利が上がっても、期待インフレ率も同じように上がれば、実質金利としての動きはなく金価格も動かないということもありえるのです。

例として一つあげてみましょう。

名目金利が、1.5%から3%に上昇。そして、期待インフレ率は1%から2.5%に上昇しました。この場合、名目金利が1.5%上昇しても、実質金利の方は0.5%と変わらず。

投資の判断をする場合、インフレによる物価上昇率と名目金利を加味した実質金利が大事ということ。この実質金利こそが金の値動きを決める重要なキーなのです。

それでは、この実質金利をどうやって確認すればいいのでしょうか。専門家は、名目金利からブレーク・イーブン・インフレ率(BEI:期待インフレ率)を差し引いて計算します。

ただ、企業の投資判断ならいざ知らず。金投資を行う目的のためなら、もっとカンタンで便利な方法があります。それは、物価連動債(インフレ連動債)の利回りを見ること。これは、インフレ率によって元本が調整される債券。そのため物価連動債の利回り=実質金利と考えることができます。

実際の米国実質金利を見てみましょう

それでは、金価格に強い影響を与える米国の金利を見てみましょう。米国の中央銀行(FRED)は、様々な統計データを見られるようにしているので便利です。

10年米国債チャート

名目金利

まず、名目金利となる10年米国債から。おっと、金利は上昇しています。約0.5%まで下がった後、1.5%前後まで上がってきていますね。こうなると金利の付かないゴールドは不利。債券など金利のもらえる金融商品の方がお得ですから、金価格は下がりやすくなるはず。

それに対して、実質金利を示す物価連動債の動きを見てみましょう。同じくFREDのホームページに最新の利回りがチャート化されているため、過去の動きとあわせて見ることができます。

10年物価連動債

実質金利

あらら・・こちらを見ると、実質金利はたいして上がっていません。そもそも、いまだマイナス金利のままですからね。2020年に金利がマイナスとなるマイナス金利ゾーンに突入した後、-0.5~-1.0%のレベルをうろちょろしたまま。

これが、実質金利のマジック。

名目金利が上がったように見えても、インフレ率が同じように上がっていれば、実質金利は低くなります。

原油・非鉄金属・材木など世界的にインフレになっていることが、実質金利の上昇を抑えているのです。もしインフレ率が低ければ、名目金利の上昇にあわせて、実質金利も上昇していきますからね。

そのため、ゴールドも大きな下げを見せていません。

今後、米国をはじめパンデミックからの回復を目指した財政拡大が進み、インフレ率が上昇していけば、名目金利が上がっても実質金利が下がっていく可能性もあります。しかも、インフレを抑えるために利上げを行うと株式や企業の景気が悪化しかねず。中央銀行はむずかしいコントロールをしなければいけない状態です。

この実質金利のことがわかれば、金投資家として一歩レベルアップしたとお考えください。