中国政府の暗号資産規制に見る歴史の洗礼「ゴールドは生き残った大先輩」

中国 暗号通貨 規制

暗号資産に関する中国規制強化は強まる方向。

2021年9月24日。中国人民銀行は、すべての暗号資産(仮想通貨)の取引について違法・全面禁止を発表しています。もっとも、これは急に起きた話ではありません。2018年から、中国政府による規制強化の方向は続いており、これからも強まると思います。

規制下におきたい政府と暗号資産・ゴールドの葛藤

今回の暗号資産規制について

・暗号資産の取引禁止
・マイニング(暗号資産の採掘・生産)の禁止
・海外の取引所が中国向けに暗号資産のサービスをすること

暗号資産やゴールドは、政府・中央銀行が、「発行や生産」という供給に関わっていないことが特徴。そのため、供給過剰による暴落が起きにくく、政府の管理下にないというメリットがありました。

しかし、両者とも政府による規制までも逃れることはできません。海外の取引所のサービス禁止は、なかなかつらいところ。例えば、海外FX会社が日本国内での登録を取らずに営業をしているケースもありますし、どこまで規制できるか今後の状況を見たいところ。

さすがに、暗号資産の価格は、下落。

BTCJPY_2021-09-30_17-07-54

ビットコイン/円の週足

暗号資産規制の目的

・詐欺やマネーロンダリング(資金洗浄)によって、経済の秩序を乱している
・多大な電力消費により環境問題に悪影響を起こす
・デジタル人民元の邪魔になる

今回の暗号資産規制は、これからも厳しくなるでしょう。デジタル人民元という政府発行のデジタル通貨普及に向けての準備との指摘もあります。

デジタル通貨は、政府が管理しやすい:管理と秩序の国

中国政府 暗号資産 規制強化

デジタル人民元が始まれば、今までよりもカンタンに個人データの管理・納税管理・資産の国内外移転などを把握することができます。新型コロナでは、国民統制を強化することで、危機を乗り切った中国政府。今後、お金の面でも管理強化を進めていき、「管理や秩序」を重視した国家を作り上げていくことになるでしょう。

通貨発行権は、国家の大事な柱。

テスラのCEO、イーロン・マスクは、中国政府による暗号資産規制のニュースに対して、言いました。

「暗号資産は基本的に中央集権国家の権力を弱めることを目的としている。彼らはそれが好ましくない」

通貨発行権:発行する通貨の額面と発行に要する費用の差額を得られる(通貨発行特権=シニョレッジ)。

とはいえ、現代の通貨は、ややこしい。日本を例にすると、日本のお金は、日本銀行券であり、これは、日本銀行の債務。日銀は、銀行券を発行する代わりに、国債等を購入。そこから発生する利息が通貨の発行益になります。

この通貨を発行する権利と納税の権利は、国家にとって重要な柱。もし、暗号資産が普及して、自由に決済で使われるようになれば、様々な管理やお金を集めて分配したい国にとって不都合なことになります。

国の政策・管理は、ちょうどよい塩梅が難しい。今、国家最大の課題が、格差拡大ですからね。自由が行き過ぎると超自由主義の元、格差拡大などが起きますし、かといって国家が平等に分配する共産主義も過去、失敗してきました。

しかし、多くの人が、法定通貨を利用し、納税をきちんとしているのに対して、一部の人が、暗号資産を利用して脱税していれば、不公平ですよね。不公平は、組織を壊す大きな要因。

もちろん、暗号資産=脱税ではありませんよ。今後、デジタル通貨やマイナンバーの普及で、脱税しにくくなる社会の中で、国家にしばられない暗号資産は、その抜け道に使われる可能性があるという話です。

ゴールドや暗号資産が、国家管理の抜け道として使われる可能性

ゴールドも同じように、そういった抜け道になる可能性があります。ただし、ゴールドなどの現物資産は、金額が大きくなるほど、決済手段としての利便性が悪くなるという欠点を持っています。そのため、現代のゴールドは、決済手段としてより財産の保全というメリットが前面に出ており、国家の脅威になる存在ではありません。

でも、その立場を得るのは、すぐに出来上がったものではありません。ゴールドと法定通貨の関係は、多くのトラブルを乗り越えて成り立っています。ローマは、一日にしてならず。暗号資産は、そういった歴史の洗礼を受けていないのが、ゴールドとの大きな違いと言えます。

政府は暗号資産を禁止できるのか

これは難しい問題。もし、全世界の政府が、中国と同じように、全面的に暗号資産の規制を行えば、可能です。その場合、暗号資産は、アンダーグラウンドで、細々と生きる日々を送ることになるでしょう。

問題は、そういったことができるかどうか。すでに、暗号資産は、ゴールドまではいかなくても、一定の評価を得て、産業として成り立っています。ビットコインの時価総額は、約91兆円。(2021年9月30日)それを全世界の政府が一丸となり、潰すということをしてくるかどうか。

あれだけ、脱税や節税の温床となっているタックスヘイブン。これを潰すのは、ある意味、簡単です。世界中の政府が協力して、タックスヘイブンの優遇税率を廃止すればいいだけ。それができないのは、皆様、ご承知の通り。仮想通貨も同じく、世界中の数多くある国の利害を調整し、全廃止に持っていくのは困難でしょう。

暗号資産なんて縁遠いから潰してもいいのではという方も、少しお待ち下さい。

もし、強権・管理国家が誕生したら、暗号資産が、その力を打ち倒す希望になるかもしれませんしね。強力すぎる中央集権国家の誕生に歯止めをかける役割を果たしてくれるかもしれません。いざとなったら、貴金属と宝石を身に着けて、仮想通貨のID&パスワードを頭に刻み、逃げ出すことになりますからね!