NISAは「少額投資非課税制度」という名称の通り、一定の金額までの投資元本に対して、その利益を非課税とする制度です。本来は投資利益の20.315%(復興特別所得税を含む)が課税されますが、NISA口座内で購入すれば非課税になります。
NISA口座が利用できる金融商品は、上場株式等と公募株式投資信託です。上場株式等には、上場投資信託(ETF)と上場不動産投資信託(REIT)が含まれます。NISAの対象となる金融商品を、ここでは以後「対象銘柄」と呼ぶことにします。また、本稿では一般NISAにおける現行制度のロールオーバーについて、説明します。
NISAの非課税期間には、個々の対象銘柄を購入した年から5年間、という期限があります。2021年は、2017年の投資分が5年目を迎えています。
5年経ったNISAの対象銘柄はどうなるのか、わかりやすく解説しましょう。
目次
NISAのロールオーバーとは
NISAの非課税期間の5年が経ち、さらに非課税で持ち続けたい人が取る手続きを、「ロールオーバー」といいます。対象銘柄を翌年のNISA口座に移管する手続きです。
5年間、売却せずに対象銘柄を保有している人には、5年目の秋に、NISA口座を開設している金融機関からロールオーバーの手続きに必要な書類が送られてきます。
非課税期間のカウントは、対象銘柄の購入日からちょうど5年ではなく、購入した年を1年目とした5年目の12月末まで。2021年に5年目を迎えるのは、2017年中に買った銘柄です。
また、投資家がNISA口座を開設した年から5年というわけではなく、NISA口座の中で購入した対象銘柄の一つひとつに対して、それぞれ5年目の年末までです。
NISAの対象銘柄が5年経つと
5年間、NISA口座で持ち続けた銘柄は、選択肢として3つのパターンが考えられます。
①年内に売る
②NISAを延長する(ロールオーバー)
③課税口座に移す
です。では、この3パターンについて、ご説明しましょう。
①年内に売る場合
年内に売るのなら、取引金融機関からロールオーバーの手続き書類が届いても、特に何もする必要はありません。売りたいタイミングを見て、ご自身の判断で売却をすれば良いだけです。ただし、年内に受渡日が来るように売却すること。年を越してしまうと課税されてしまいます。
2021年の場合、大納会は12月30日(木)です。国内上場株式なら、12月30日から起算した3営業日前である12月28日(火)が最終売買日。投資信託は銘柄によって受渡しにかかる日数が異なります。12月30日までに現金化される日程で解約するよう注意して下さい。
なお、年末ギリギリまで持っていても、日程面でメリットはありません。相場の状況を見て、ご自身で最適と思うタイミングで売却することをお勧めします。
②NISAを延長する(ロールオーバー)
ロールオーバーは、言い換えれば「非課税期間の5年延長」です。手続きに必要な書類「非課税口座内上場株式等移管依頼書」は、NISA口座を開設している金融機関から送られてきます。この書類に必要事項を記入して、決められた日までに返送すればOK。さらに5年間、非課税期間が延長されます。インターネット証券やネットバンキングでも、提出は郵送です。
NISAは時限措置で、2023年までに購入またはロールオーバーする分は、その後も現行制度が適用されます。2024年以降の新規購入やロールオーバーは、改正が予定されている新しいNISA制度になります。
③課税口座に移す
ロールオーバーを希望しない場合は、特に何も手続きは必要ありません。年が明けると自動的に課税口座に移管されます。課税口座は、その投資家が選択している「特定口座」か「一般口座」のどちらかです。
「課税の口座に移すメリットはあるのか?」と思うかもしれません。NISAは年間の投資元本が120万円までと決まっています。新たな資金を投じてNISAで別の対象銘柄を買う予定がある人は、その銘柄のために枠を空けておく必要があるでしょう。ロールオーバーで枠を使うことを敬遠する人がいてもおかしくありません。
5年経過後の取得価格に要注意
ここで大事な注意点があります。NISAで5年経った後の「取得価格」についてです。
➁でロールオーバーしたNISA口座と、③の課税口座のどちらも、5年前のNISA口座からは「移管」される扱いになります。移管後の取得価格は、実際に購入した時の買い値ではなくなります。
➁では2巡目のNISA口座の、③では課税口座の帳簿上の取得価格は、移管の前営業日にあたる前年の年末の価格です。どちらも、移管のタイミングで取得価格がリセットされるのです。2021年に5年目を迎える銘柄であれば、ロールオーバーまたは課税口座に移した場合、2021年12月30日の終値が、その後の口座の帳簿上の取得価格です。
これにより、売却する時の損益計算は、新しい取得価格が基準になります。ロールオーバーした場合はそもそも損益どちらでも課税されませんので、大きな問題ではないでしょう。
気を付けたいのは課税口座に移した場合です。課税口座でその銘柄を売却することになった時、新たな取得価格と売却価格の差額に課税されるからです。最初に買った価格より値下がりした状態で課税口座に移管し、値が回復してから売却したとします。すると、帳簿上の取得価格が安い分、実際の買い値より利益が大きくなります。その利益に対して税金がかかってしまいます。
「NISAを利用したけれど、5年で値下がりしてしまい、非課税のメリットが受けられなかった」という銘柄が課税口座に移ってしまうと、その後の相場展開によっては、余分な税金を払うことにもなりかねません。
ロールオーバーしたら、枠がなくなる?
つみたてNISAでもジュニアNISAでもない、一般のNISAは、1年間の非課税投資枠は120万円です。ロールオーバーをした場合、移管した対象銘柄の時価が、ロールオーバー後1年目のNISAの枠を使います。この時、ロールオーバー分の時価が120万円を超えていたとしても、はみ出した金額も含めてロールオーバーできます。この時点で120万円の枠は使い切っていますので、その年は新たなNISAの買い付けはできません。
一方、ロールオーバー分が移管時の時価で120万円に満たない場合は、移管後1年目は120万円との差額までの範囲で、新しい資金でNISA内で対象銘柄を買うことができます。
まとめ
NISA口座で5年間持ち続けた銘柄は、その後の選択肢として、①年内に売る、②NISAを延長する(ロールオーバー)、③課税口座に移す、というパターンが考えられます。個々の対象銘柄の状況と、投資家の投資方針などを踏まえ、最適な選択ができればと思います。年内に売却する場合やロールオーバーの手続きをする場合は、期限を超えないように注意も必要です。