インフレで金価格が上がりやすいことは、何度かご紹介しましたね。逆にデフレだと、金価格は下がりやすい。
目次
ゴールドとスタグフレーション:インフレ&不況
では、インフレと不況が合わさった「スタグフレーション」のときはどうなるのでしょうか?
現在、欧米を中心にインフレが起きています。そして、景気の方は、株価こそ上昇しているものの危うさから抜けきれていません。コロナパンデミック下の経済は、政府・中央銀行の支援次第の面もあり、不況になってしまうリスクが心配されています。
それこそ、鬼より怖いスタグフレーション。では、過去、スタグフレーションが起きたときの理由をご紹介します。そして、その時に、ゴールドがどう動いたかを見て行きましょう。
オイルショックが引き起こしたスタグフレーション
近年で、最も大きなスタグフレーションが起きたのは、1970年代。もう50年ほど昔になるので、記憶にない人も多いと思います。このとき、インフレ率は、脅威の二桁。デフレが当たり前の平成・令和には信じられないことですが、物不足で、狂乱列島と呼ばれたほど。
オイルショックによるコストプッシュ型のインフレ
インフレは、オイルショックの影響(外部要因)で、エネルギー価格が上昇したことが大きな原因。好景気によるインフレとは違い、資源価格の上昇で起きるインフレは、コストプッシュインフレと呼びます。そして、不況になるリスクがあることから、対策が難しいとされています。
- 1973年10月:第四次中東戦争。⇒原油価格の引き上げとアラブ非友好国への石油供給削減(オイルショック)
このオイルショックによって、生産&流通コストが上昇。次に、様々な商品の価格に転嫁されてインフレに。好景気が原因ではなく、資源価格の上昇によって、仕方なく価格が上昇というのが切ないところ。そのため、需要も減少。生産縮小=不況に陥るというのが、オイルショック時の流れ。
日本でもインフレ率は、驚きの20%超。そして、ゴールドは、激しいインフレの影響で、急上昇。逆に、株価は、オイルショック不況に見舞われて、大きく下落しました。
そして、またもやオイルショックが世界を襲います。1979年、OPECは、石油価格を大幅値上げ。イラン革命やイラン・イラク戦争の影響もあって、第二次オイルショックです。
このとき、またも、金価格は、大幅に上昇。ただし、その後、インフレ率が落ち着いたことやインフレとあわせて金利も上昇していったことから、価格は下がっていきました。
21世紀のオイルショックになるか
2021年のインフレも新型コロナのパンデミックによる供給網の乱れ、CO2削減による化石燃料への投資減少。それが、エネルギー価格の上昇につながっており、オイルショック時と資源価格の上昇という点では、似たような流れ。
過去のNY金価格です。1970年代のオイルショックで、大幅に急騰していることがおわかりいただけると思います。オイルショックに伴い、200ドル以下だった金価格は、800ドル超えへと急騰していますね。
その後は、原油価格が落ち着いたこと。金利上昇に加えて、中南米の経済危機など、世界経済が悪化していったことが影響して、一時的に下落することになりました。
2021年、米国で兆候の見えるスタグフレーション
- インフレ率:6月5.4%⇒9月5.4%
- 実質経済成長率:4-6月期6.7%⇒7-9月期2.0%
さて、米国のインフレ率と実質経済成長率(GDP)を見てみましょう。おっと、インフレ率は、高いまま。なのに、GDPは、下がってしまい、2.0%しかありません。このズレが大きくなれば、スタグフレーションの影が濃厚です。この7-9月期のGDP減速は、個人消費の減少が影響。コロナのパンデミックが収まりつつある中、現金給付などの強力なコロナ対策無しで、米経済は成長を続けられるだろうかという疑問が出てきますね。
だからといって、さらなる経済対策を行えば、激しいインフレになる可能性が高い。うーん、でも、対策を行わなければ、不況になる。この狭間で、米国は、バランスを取ることができるのでしょうか。
スタグフレーションが起きた場合のゴールド&株価に対する3つのシナリオ
スタグフレーションは、下記のような現象を引き起こす可能性が高い。
シナリオ1:スタグフレーション
- インフレ率の上昇
- 株価の下落
- 金利の上昇⇒景気に配慮し、本来、必要なだけの金利上昇が起きない可能性。
この場合、金価格にとって、大きなプラス。インフレが強いのに、株価が下落するのは、投資家にとって、泣きっ面に蜂。それに対して、インフレ率に比べて低い金利のままが続く。そうなると、低金利&インフレを好む金価格は、上がるしかありません。
シナリオ2:スタグフレーション退治のインフレ
とはいえですよ。経済がスタグフレーションに陥るのを黙って見ているわけには行きません。政府や中央銀行が、量的緩和や現金給付を行えば、量的緩和と同じシナリオ。
そのときは、株価回復・ゴールド上昇につながるでしょう。ただし、インフレに火を付けるリスクがあります!
スタグフレーションによる金の弱気シナリオ
さあ、3つ目のシナリオをご紹介します。
スタグフレーションに陥り、インフレと不況のどちらを重視するか。もし、中央銀行が、インフレ退治を重視し、金利を引き上げる方向を選択すればどうなるでしょうか。
これは、かなり危うい状況。何しろ、不況なのに金利を引き上げるのですから、不況の深刻化リスクがあります。もちろん、株価も下がるはず。そして、金利がどんどん上昇していけば、金価格も下がることになりやすい。ゴールドにとっては、嫌なシナリオです。
ただ、この政策を取るのは、凄まじいプレッシャーにさらされるでしょう。そのため、一番、実現が難しいと思います。
さて、スタグフレーションと金価格について、3つのシナリオをご紹介しました。この後、どのような現実が起きるかどうかについては、インフレ率とGDPの乖離。そして、金価格の動向に注目です。
インフレヘッジの王様だった「ゴールド」が上昇しない謎とは?