「東証1部上場企業」という言葉は、大手企業の代名詞とも言え、株式投資をしていない人でも見聞きする機会が多いと思います。就職情報や商品の広告などでも、目立つように表示され、自社をアピールすることもよくあります。
この「東証1部上場」というくくりが、2022年4月からなくなります。東京証券取引所が来年4月から、新しい市場区分を取り入れることになっているのです。
なぜ、東証が市場区分の再編をすることになったのでしょうか? また、来春以降の市場はどうなるのでしょうか? シリーズでお届けします。今回はまず、市場再編の背景について簡単にまとめました。
目次
東証は経営統合を行ってきた
東証はこれまで、大阪証券取引所と経営統合をするなどして現在に至っています。現在、東証は、日本証券取引所グループのうち、株式や債券などの証券取引を行う市場となっています。株式は、東証1部、東証2部、マザーズ、JASDAQスタンダード、JASDAQグロースという5つの市場区分があります。
取引所の経営統合を経て、市場ごとの上場基準の違いに問題が生じたり、新興市場の区分の違いがあいまいになっていたりと、課題が浮上するようになってきました。
そもそも証券取引所は、証券取引を通じて「株価」という企業価値を測る場所です。また、中立で公共性を持ち、企業価値を向上させる役割も担っています。東証は、この本来の役割が十分機能していないという課題に直面していました。
東証1部上場企業が多すぎる?!
この記事を執筆している2021年8月20日現在、東証1部上場銘柄は2,190銘柄。第2部は472銘柄です。その市場の最上位に位置する1部上場銘柄として、過大なのではないかという意見も出ています。
また、2,190銘柄のうち、必ずしも投資対象として内容の良い銘柄ばかりではない点も問題です。時価総額が小さい、PBRなどの投資指標が見劣りする、などの銘柄も「東証1部上場企業」に紛れているのです。
その理由も、先ほど挙げた市場ごとの上場基準の違いが背景にあります。上場廃止基準や、1部から2部への指定替え基準が低いため、一度1部に上がったら、特段の企業努力を必要とせずに「1部上場として安泰」というムードを生み出したのではないかと思います。
TOPIXの運用も困った
さらに、インデックス運用が広まるにつれ、東証1部に上場する全銘柄で構成する「東証株価指数(TOPIX)」も問題視されるようになってきました。年金資金や投資信託など、機関投資家がTOPIXに連動する運用をするには、東証1部で流動性の低い銘柄にも投資をしなければなりません。インデックス運用のために、発行済株式数が少ない銘柄や流動性の低い銘柄を売買すると、株価のゆがみが生じます。
これらの課題を解決し、本来の役割をするために、東証の上場区分を見直すこととなったのです。
3つの市場区分
東証は、時間をかけて市場関係者や専門家などから幅広く意見を集め、いよいよ2022年4月4日から、市場区分を変更することとしました。現在5つある市場は、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」という3つの市場区分に再編されます。
それぞれの区分のコンセプトは、以下の通りです。
プライム
- 個人投資家や国内外の機関投資家が参加する市場
- 機関投資家による大量の売買に見合う時価総額や流動性を備えた株式の取引
- グローバルな投資家との建設的な対話ができる企業の株式が対象
スタンダード
- 個人や一般的な投資家が参加する市場
- 上記のプライム市場に比べて、時価総額や流動性、ガバナンスの基準を緩和
- 東証に新規上場する際、メインと想定する市場
グロース
- 高い成長可能性を持つ企業の株式取引
- 成長性に関する十分な情報開示が必要
- 東証が想定している銘柄は、研究開発費などの資金ニーズが非常に高い先行投資型の企業
新たな市場区分の具体的な上場基準については、次回の【上場基準編】で、今後のスケジュールとともにお伝えします。また、この市場再編を控えて、今、上場企業の間で続々と対策が打ち出されています。上場企業の対策は【企業の対策編】でお伝えすることにします。どうぞお楽しみに。
「東証1部上場」がなくなる? 【上場基準編】 「東証1部上場」がなくなる? 【企業の対策編】 「東証1部上場」がなくなる? 【TOPIXの見直し編】