前回記事『個別元本ってナニ?(上)損益を計算する時の「買い値」』では、投資信託の「個別元本」という言葉の説明、値上がりして換金した時の課税のしくみと、積み立てや買い増しをした場合の個別元本の再計算についてお伝えしました。
個別元本については、もう1点、知っておいて頂きたいことがあります。
個別元本ってナニ?(上)損益を計算する時の「買い値」目次
投信の収益分配金について
投信の種類には「分配型」と「無分配型」があります。
分配型は、決算期ごとに運用益の一部を現金化して、投資家に支払うタイプです。運用がうまくいかない場合は、分配金が支払われないこともあります。
無分配型は、決算をして運用益が出ていても、その都度投資家には還元しない、と初めから決められているタイプ。投信の純資産に運用益を残し、基準価額が上がるような運用方針です。
前者の分配型のうち、決算を毎月行なって分配金を投資家に還元する「毎月分配型」が、一時期、比較的高い分配金を出していて大ブームになりました。
本来、分配金は運用益の一部なので、運用が芳しくなければ分配金は出せないのですが、一部では、過去の含み益を取り崩して高い分配金額を維持する投信もあったのです。
その背景には、投資家や販売サイドの期待もありました。実際、分配金額を引き下げると解約が相次いだ投信も少なくありませんでした。
1万口あたり分配金は買い値にかかわらず誰もが同額
最近では、金融庁の指導もあり、運用実績に見合う分配金を出すように是正されました。ただ、追加型株式投信は、買った日が違えば投資家ごとに個別元本が違います。高い基準価額の時に買ったために、決算時に含み益が出ていない投資家がいる場合もあります。
それでも、投信の1万口あたり分配金はみな同じ金額で支払われます。すると、同じ決算期に受け取る分配金なのに、利益として受け取る投資家と、実際は含み損の状態で分配金を受け取る投資家が混在することになります。
だいぶ横道に逸れましたが、いよいよ個別元本の出番です。この時、受け取る分配金について、公平に課税できるのは「個別元本」のおかげなのです。
分配金に対する公平な課税とは
追加型株式投信の場合、簡単に言えば、分配金がその投資家にとって利益であれば課税され、利益でなければ課税されません。
投信の決算で分配金額が確定し、分配金を出すことを「分配落ち」といいます。基準価額は、分配金の金額分、見た目では値下がりをします。分配落ち後の基準価額と個別元本の差額で、投資家ごとに課税されるか課税されないかが判断されます。
計算は複雑になりますが、個別元本を基にすると、利益に対してのみ課税され、公平です。元本が払い戻されると、その分、個別元本が下がるしくみになっています。
今回も、簡単な事例で「分配金が課税されるのか、されないのか」そして「課税される場合の課税対象額」を説明しましょう。
課税される場合の課税対象額について
abc投信では、収益分配金を払う直前の基準価額10,600円から収益分配金600円を投資家に支払い、分配落ち後の基準価額は10,000円となった。投資家の個別元本は、Aさん9,600円、Bさん11,500円、Cさん10,200円である。
分配落ち後の基準価額と個別元本の差額を確認します。差額がマイナスになった場合、受け取る分配金600円のうち、マイナスの金額の分は、課税されません。
[Aさん]10,000円-9,600円=400円
(差額がプラスなので分配金600円は課税される)
[Bさん]10,000円-11,500円=-1,500円
(マイナスなので、600円の分配金は課税されない)
[Cさん]10,000円-10,200円=-200円
(分配金600円のうち、200円は課税されず、残りの400円は課税される)
課税される分配金を「普通分配金」といい、課税されない分配金を「特別分配金」といいます。
なぜマイナス分が課税されないのかというと、Bさんの分配金やCさんの分配金の一部は、利益の還元ではないからです。
利益でないのに支払う分配金は、元本を払い戻す扱いになるので、特別分配金を「元本払戻金」ともいいます。
元本が払い戻されると個別元本が変わる
個別元本の話はここで終わりではありません。上の事例では、この決算の後、BさんとCさんの個別元本は変わります。元本が払い戻されたので、再計算されるのです。
[Bさん]元の個別元本11,500円-元本払戻金600円=新たな個別元本10,900円
[Cさん]元の個別元本10,200円-元本払戻金200円=新たな個別元本10,000円
この計算は、投資家一人ひとりに対して、分配金を支払うたびに行ないます。販売会社の預かり資産明細を見ると、自動的に再計算されています。投資家同士の公平性を保ち、損をしている状態での分配金には課税しないようになっているのです。
個別元本:まとめ
個別元本は、収益分配金を支払う際に、税金の面で投資家どうしを公平に扱うために重要です。
個別元本と配当落ち後の基準価額の差が、課税されるか課税されないかの分かれ道です。
課税されない特別分配金を受け取ると、その後の個別元本が修正されます。
個別元本ってナニ?(上)損益を計算する時の「買い値」