投資をこれから始めようとする人は「クオンツ運用」という言葉も初めて聞くかもしれません。
数年前から話題に上ることもありましたが、まだまだ主流にはなっていない様子です。
そこで今回の記事では、この「クオンツ運用」について深く見ていく事にしましょう。
目次
クオンツ運用とは
クオンツ運用とは、ファンドマネージャーの判断ではなく、あらゆるデータに基づいて、定量的に投資比率の決定、銘柄選定、ポートフォリオ構築を行うものをいいます。
一般的な資産運用の現場ではアナリストが銘柄についての調査を行い、ファンドマネージャーがその情報を基に投資先の銘柄を選定してポートフォリオを構築していきます。
従来の運用方法である人の経験値による判断よりも、データ等の数字的な材料を集め、高度な数学技術を使い運用していく方が運用成績が良くなるのではないか?との考えから派生してきた運用方法になります。
また、クオンツ運用のクオンツという言葉はquantitative(数量的)という英語から派生した言葉で、数量分析をする人々や数量分析を行うことを意味しています。
本来は数量分析による運用という意味で、クオンツ運用を行なうファンドをクオンツファンドと呼称しています。
クオンツ運用の仕組みについて
クオンツ運用の仕組みを詳しく説明しますと、
- 株価や業績といった企業に関するデータ
- 金利やGDP成長率、雇用情勢など経済に関するデータ
- マーケットに関連するデータ
などをもとに、統計学などの高度な数学テクニックを使い、各自が開発した運用モデルに基づき運用していきます。
各自が開発した運用モデルとは、上述したデータをもとにファンドの運用方針に基づきルールを設定し、そのルールに従って、銘柄の入れ替え、各資産に対する投資比率の決定などを自動で行うというシステムです。
ルールの例としてあげますと、
- 利益率の高い銘柄は投資判断を買いとする
- ポートフォリオのリスク数値を設定する
- 各資産の投資比率を調整する
など、このルールは非常に多くの方針が考えられます。
その運用方針はそのファンドの特徴となりファンドごとで千差万別です。
このように、クオンツ運用とはファンドの運用方針に基づいた運用モデルにより投資を行うという特徴があるため、ファンドマネージャーの裁量(ファンドマネージャーの能力とも言えます)がポートフォリオの投資比率に影響する割合が、通常の運用方法と比較して少ないという特徴があるのです。
ですから、クオンツファンド、クオンツ運用と聞けば、コンピューターシステムによる投資判断に基づいて運用すると捉えて良いでしょう。
従来のファンドの運用担当者による判断で行う運用とは異なり、運用の現場において誰が「買い」「売り」の決定、投資判断を行うのかがポイントであった従来の運用との違いであると考えて下さい。
クオンツ運用の強みとは
クオンツ運用の強みとして一番に上げられるのは、人間の感情に左右されないという点です。
どうしても人が行うと感情や立場、社内政治に影響を受けてしまいがちです。そしてともすれば恐れや野心といった感情、会社や業界での立場など、本来意思決定に際して考慮すべきでない要因の影響を受けます。
これに対してコンピューターはあらかじめ判断のルールさえ与えておけば永久にそのルールに従ってそのとおりに判断しますので、感情による差異が起きません。
では、ここで気になってくるのが、そのコンピューターのルールは誰がどう作るの?といったところになると思いますのでその部分に着目していきましょう。
このクオンツ運用というコンピューターシステムによる運用の実際的な裏側を知ることで皆さんはファンドを選ぶ時の指針になるかとも思います。
結論から言うと、このコンピューターシステムは人間が開発、構築していく事になります。
システム開発のプロセス
開発のプロセスは大きく分けて3段階あります。
プロセス1:運用モデルアイディアの考案
まず初めに新たにファンドを立ち上げる際には運用方針を策定します。
会社を立上げる際のビジネスモデルのようなものです。
この運用方針に基づいて開発が進められていく事になるのですが、そこで策定された運用方針に従って運用していくために、どのようなルールを運用の出るに組み込むかというアイディアを考えていきます。
アイディアの種類は様々です。
最先端の投資理論、学術論文、証券会社のレポートなどから使えそうなものを探す場合もあります。
良いアイディアが出てきたら次にそれを実務で使えるかどうかを検討します。アイディアとしては画期的なものであってもそのアイディアを実際的に実務に落とし込めるかどうかは大きなポイントとなります。
この画期的なアイディアを実用化できるまでに仕上げられるかどうかが、運用モデル開発における肝の部分と言えます。
プロセス2:データベースと運用モデルの構築
次はデータベースの構築を行います。
マーケットのデータなどを取り込みながら柔軟に対応できるデータベースを構築していきます。
このデータベースの構築は運用モデルを開発していく過程において、その後の成果に大きく影響してくる重要な工程になります。
割と時間がかかり、数カ月から1年ほどかかる場合もあります。ここでは高度なプログラミング能力が必要とされ、複雑なアイディアを正確に実現するという大きなハードルがあります。
プロセス3:バックテスト
最後は検証します。
運用モデルが構築されその運用モデルが初期に考えたアイディア通りに作動するか、想定したような実績を出せるのか、イレギュラーが起きた時にどのように反応するのかなど、細かい条件を設定して緻密に検証していきます。
多方面から分析を行い実用性が高い、想定通りのパフォーマンスを出せると判断された場合には実用化されることになります。
この運用モデルの開発は他のシステム開発、ゲーム開発などと同様、なかなか大変な作業で商品として実用化、販売まで至るのは一握りのシステムになります。
あらゆるアイディアを出し、手間をかけてシステムを構築してもバックテストで良い結果が出なければそのシステムはボツになります。
最後によく指摘されるクオンツ運用の弱点について触れておきましょう。
クオンツ運用に対して良く指摘されるのは「運用ルールが硬直的」「真似されやすい」「過去のデータに基づき開発しているので新たな市場環境変化に対応しきれない」という点です。
弱点を見た場合、根本的、本質的にシステムが持ち合わせているのが一番初めに上げた運用ルールが硬直的という点でしょう。
これは先述した人間の感情に左右されないという強みと矛盾する点ではありますが、時としてはそれが弱みとなってしまいます。
真似されやすいという点はシステムである以上、否めません。
しかし、これはファンドマネージャーが運用を行っているファンドでもよくあることで、似たような銘柄が買われているというケースを目にすることがあります。
クオンツ運用の場合はポートフォリオをコピーされてしまうと似た運用ができてしまう事になります。
しかし、あくまでも似た運用であって細かい匙加減までは真似することは不可能でしょう。
その匙加減が大きな成果の差になる場合も無きにしもあらずと言えるでしょう。
クオンツ運用:まとめ
クオンツ運用も、システム構築時に判断基準を人間がプログラムして作成しているので、こうすれば儲かるに違いないとか、こういう風にやれば成果が出るだろうという想定で作っています。
過去のデータや理論の裏付けはあるのですが、どこまで行っても人間が決めて作っているものなので、完全無欠のコンピューターシステムは今のところまだ世には無い、という考えをご自分の頭の中において、ファンド選びなどの際には判断していただければと思います。