退職する時に受け取る“ 退職金 ”には、給与や賞与と同様に税金がかかります。
しかし、その具体的な課税内容や計算式をきちんと理解している人はあまり多くないでしょう。
そこで今回は、退職金にかかる税金の種類からその計算方法について丁寧に解説していきます。
あなたの大切な資産を守るためにぜひご活用くださいね。
目次
退職金にかかる税金の種類
退職金にかかる税金は「所得税」と「住民税」、2037年までは「復興特別所得税」の3種類です。
それぞれの税について「なんとなくは知っているけどきちんと説明できない」「初めて聞いた言葉で何が何だか分からない」という方は、今回を機にしっかりと理解していきましょう。
所得税
まず所得税とは、会社からもらう給料や自分で商売をして稼いだお金などにかかる税金です。これは、所得がある人全員が必ず納めなければなりません。
所得税の計算方法は、毎年1年間(1月1日から12月31日まで)の所得から所得控除を差し引いた金額に定められた税率を適用することで税額を出すことができます。
復興特別所得税
復興特別所得税とは、2011年の東日本大震災からの復興財源を確保するために創設された税金です。
2013年から2037年までの各年の所得が対象となります。
復興特別所得税は、所得税と同様に所得がある納税対象者全員が支払う税金で通常の所得税に上乗せして徴収されます。
会社勤務などの給与所得者は源泉所得税と併せて復興特別所得税額が徴収され、個人で所得税を納める義務のある人は、確定申告の時に所得税と復興特別所得税を合計した内容を申告し納税する必要があります。
住民税
住民税とは、住んでいる地域に収める税金のことです。
その年の1月1日時点に住民票がある自治体が納税対象で、特別徴収または普通徴収で納めることになります。
より詳しい内容を知りたい方は、下記の記事にて紹介しているのでぜひ確認してみてくださいね。
【社会人必見】住民税はいつから納める?納付方法なども解説>>>
退職金にかかる税金の計算方法
ここからは、退職金にかかる税金の算出方法を解説していきます。
そもそも退職金や退職手当は、税法上では「退職所得」と呼ばれます。
なお、退職金の支給は義務ではなく会社側が自由に決めて良いことになっています。
一般的には正社員が退職した際にその勤続年数に応じて退職金を支払う規定になっていますが、退職金制度が一切ない会社もあるので入社前に確認しておくことをお勧めします。
課税対象になる退職金の求め方
退職金にかかる税金というのは「退職所得金額」が対象となるので、まずは自分の退職所得がいくらなのかを知らなければいけません。
その算出方法は、以下のとおりです。
課税退職所得金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)× 2分の1
税金を計算する際の課税退職所得金額は、退職金の収入金額から「退職所得控除」を引く必要があります。
そのため、退職所得控除額がいくらなのかを知る必要があります。
一見ややこしいですがきちんと手順を追って計算すれば問題なく求められますので、焦らず丁寧に進めていきましょう。
まず、退職所得控除額は勤続年数によって決定します。
勤続年数に1年未満の端数がある場合は、切り上げて1年として計算します。
たった1日でも過ぎていれば年数を切り上げられるのでよく確認しましょう。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円未満の場合は、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
基本はこの計算式で求められますが、障害を持ったことにより退職した場合や本人の死亡による退職など、それぞれのケースで優遇措置があります。
退職控除額を算出したら、あとは課税退職所得金額に当てはめて計算してください。
所得税と復興特別所得税の計算方法
ここからは、所得税と復興特別所得税についての算出方法を解説していきます。
- 所得税
退職金にかかる所得税を計算する時は、原則として他の所得と分離して計算します。
一般的に所得税は、退職金を受給する際に勤務先に対して「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、会社側が所得税と復興特別所得税を計算し、退職金から源泉徴収してくれます。
したがって、基本的には確定申告は必要ありません。
今お伝えした、申告書を会社に提出している人の所得税額の算出方法は以下のとおりです。
退職金の所得税額=(課税退職所得金額×所得税率-控除額)× 102.1%
課税退職所得金額ごとに異なる「所得税率」「控除額」は、以下の表で確認することができます。
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円未満 | 5% | 0円 |
195万円超330万円未満 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円未満 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円未満 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円未満 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円未満 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
参考:国税庁「所得税の税率」
- 復興特別所得税
復興特別所得税は、所得税額の2.1%に課されます。
復興特別所得税額=退職金の所得税額×2.1%
ただし「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出しなかった場合、退職所得控除が受けられず、会社側が退職金の20.42%を所得税と復興特別所得税として源泉徴収することになります。
その場合は退職所得にかかる源泉徴収が過大になってしまう可能性があるので、必ず「退職所得の受給に関する申告書」を提出するか、確定申告で所得税と復興特別所得税の精算をするようにしましょう。
※「退職所得の受給に関する申告書」とは、退職金を受け取る本人が勤務先に提出する書類のこと。
申告書には、退職理由・勤続年数・本人の署名押印が必要で、退職所得控除を適用した退職所得を算出するために使用します。
住民税の計算方法
続いて住民税の算出について解説していきます。
住民税の計算は、課税退職所得金額に住民税率をかけて計算します。
住民税率は、所得税率とは違い、課税退職所得金額に関わらず一律10%となります。
住民税額=課税退職所得金額×住民税率10%
退職金の受け取り方は「一時金」と「年金」がある
ここまで各税金の計算方法について詳しく解説してきましたが、実は退職金の受け取り方は2通りあり、それによって退職金の扱いが変わってきます。
- 退職金一時金:退職時に一括で受け取る
- 年金:確定給付年金や確定拠出年金などの分割で年金として受け取る
ただし、会社によっては受け取り方を選べない場合もあるので注意しましょう。
退職金一時金として受け取る場合
2パターンの受け取り方によって税の扱いが変わってきますので、それぞれ説明していきます。
まず、退職金一時金として一括で受け取る場合は「退職所得」として扱われます。
そのため、これまで説明してきた計算式でその金額を求めることができます。
年金として受け取る場合
対して退職金を年金として分割で受け取る場合は、退職所得ではなく「雑所得」として取り扱われます。
雑所得とは10種類ある所得税の1つで、他の9種類のどれにも当てはまらない所得のことを指します。
例えば、サラリーマンや主婦が副業で稼いだお金やビットコイン等の仮想通貨で出した利益が雑所得とみなされます。
なお、雑所得には上記の他に公的年金や生命保険契約による年金なども含まれます。
このことから、退職金を“ 年金 ”として受け取ることによって雑所得の扱いになるというわけなんですね。
このようなかたちで分割で年金として受け取る場合は、年金の収入金額に対して「公的年金等控除額」が適用され公的年金等と合算されて計算されます。
【65歳未満】
収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
60万円以下 | 0円 |
60万円超130万円未満 | 収入金額-60万円 |
130万円超410万円未満 | 収入金額×0.75-27万5千円 |
410万円超770万円未満 | 収入金額×0.85-68万5千円 |
770万円超 | 収入金額×0.95-145万5千円 |
【65歳以上】
収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
110万円以下 | 0円 |
110万円超330万円未満 | 収入金額-110万円 |
330万円超410万円未満 | 収入金額×0.75-27万5千円 |
410万円超770万円未満 | 収入金額×0.85-68万5千円 |
770万円超 | 収入金額×0.95-145万5千円 |
1,000万円以上 | 収入金額-195万5千円 |
ただし、退職金を年金として受け取る場合は1つ注意点があります。
先ほど説明したように、退職金の「所得税」を計算する時は原則として他の所得と分離して計算しますが、「雑所得」として扱われる年金で受け取る場合は例外となり他の所得と合算して計算しなければなりません。
そのため、公的年金や副業による収入がある場合はそれらをまとめて税額を算出しましょう。
退職金の受け取り方はさまざまな角度から判断しましょう
2パターンの受け取り方法によって退職金がどのような扱いになるのかが決定し、そこから税額が決定します。
一時金として一括で受け取る場合は退職所得控除が適用されるため、勤続年数が長ければ長いほど税負担は軽減していく仕組みになります。
ただし、退職金を老後の資金にあてようと考えているなら一括で受け取った金額を計画的に使えるよう、しっかりと計画を立てておきましょう。
また、年金として分割で受け取る場合は受け取り期間や給付利率が異なる場合があるので、ご自身のケースを確認する必要があります。
受取期間が長い場合や設定されている給付利率が高いと年金として受け取る総額も多くなる可能性があります。
ご自身の勤続年数や生活スタイル、老後のライフプランなど、さまざまな角度から総合的に判断し受け取り方を検討しましょう。